尾崎の風情も捨てがたかった

昔ながらの漁の集落の面影を残す尾崎という地。民家が密集し、道路も狭かったが、いいたたずまいだった。その海岸に、長須賀浜という砂浜があった。気仙沼湾の一角で、実に穏やかな浜だった。砂浜と松林を隔てる防潮堤ができたのは、そんなに昔ではない。防潮堤とは無粋なものだと思った。海は隔絶されたのかもしれなかった。今となれば幻想だけれども。
湾の水がきれいだったころ、海水浴も盛んだった。そこに今、砂浜が残っているのかどうか。数メートルの尾崎神社の高みを残し、集落は失われてしまった。